スペシャルインタビュー

こだわる男たち、インナーを語る。

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平尾 成志さん
平尾 成志さん
盆栽師

1981年生まれ。学生時代に訪れた東福寺方丈庭園に感銘を受け、日本の伝統文化を継承する道を決意。大学卒業後さいたま市北区盆栽町にある蔓青園に弟子入り。専属管理師として盆栽園の管理運営のほか、国内外でデモンストレーション・ワークショップなどを行い、注目を集める。2013年には文化庁の文化交流使を拝命。日本固有の文化である盆栽の美意識と、その楽しみ方を教えるとともに文化交流を行う。現在も各地での盆栽パフォーマンスや技術指導など精力的に活動している。

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「盆栽」から「BONSAI」へ
「日本文化の継承者」が着る
ジャパンメイドのアンダーウェア

ワイシャツの下にアンダーウェアを着るのはビジネスマンならよくあること。だが、カジュアルなTシャツの下には何を着るのか、あるいは、何も着ないのか?「仕事着がTシャツ」と話すのは希代の盆栽師・平尾成志さん。
日本の伝統文化である盆栽をアートやポップカルチャーの領域へと昇華させた彼に、アンダーウェアへのこだわりを聞くため自身が管理する盆栽園「成勝園」を訪れた。

大切にしているのは絶対評価。相対評価はしたくない。

成勝園は盆栽師・平尾成志さんが2016年に開いた盆栽園。古民家を利用した事務所兼作業場兼ギャラリーには、剣持勇の灰皿や柳宗理のバタフライスツールがさりげなく置かれ、カウンターの後ろに1950'sふうのデザイン家電がセンスよく配されるなど、今ふうの和モダンな空間が設えられている。

文化庁の依頼で世界11カ国を巡り、日本の伝統文化を通じた交流は「BONSAI」という日本語を定着させた。内外の芸術祭への参加、クラブでDJとコラボレートした即興の盆栽パフォーマンスこそ、平尾さんの活動の中心である。園の片隅では小さな鉢植えも販売されているが、本業はパフォーマーでありアーティストである。後進の育成にも力を注いでおり、時折「弟子の○○です!」と礼儀正しい青年たちが忙しそうに盆栽の手入れをしているのは徒弟制度ならでは。どこか体育会のようだなと思ったら、平尾さんは元陸上部で長距離選手だった。

「盆栽師という名称は、僕がオリジナルでつけた肩書なんです。それまで盆栽職人などと呼ばれていたようですが、なんとなくしっくりこなくて」

海外からのお客様に日本の伝統文化を紹介するための盆栽を制作することもあれば、自ら海外へ出向いてクールジャパンのエバンジェリストとしての役割も担う。盆栽を現代アートの領域にまで高めた作品を展示、インスタレーション的な作品づくりも行うなど、伝統的な盆栽職人の枠組みにとらわれない活動を続ける平尾さんには、確かに従来の肩書は似合わない。

「庭師と勘違いされることもありますが、それとも違う。私の仕事を正確に言葉にするのは難しいかもしれない。作務衣(さむえ)や法被(はっぴ)のような制服はありません。木の枝に腕を突っ込むので袖が邪魔になる服は着ません。だから仕事のときでもTシャツやカットソー、スウェットパーカなんかを着ていることが多いでしょうか」

平尾さんは長い髪を束ね、白いTシャツに黒のスキニーパンツ、スニーカー姿で剪定バサミを振るう。弟子の頃はモヒカンヘアで、裏原宿系ストリートブランドや、ド派手なプリント入りのロックTシャツで作業していたと笑う。最近は年齢的に落ち着いてきたこともあり、シンプルな無地のTシャツを着ることが多くなったようだ。

「いちおう僕の中では作業用のTシャツと、プライベート用のTシャツが分かれていて、今日の白いTシャツはよそ行き用です。汚したくないし、透けたりするのもイヤなので、必ずアンダーウェアを着ます。Tシャツを重ねるよりは、タンクトップを着ることが多かったかな」

平尾さんにとって、プライベートのカジュアル用Tシャツと、盆栽師としての仕事用Tシャツは別物だ。仕事のときのTシャツは作業着でもあり正装でもある。その選び方にも一家言お持ちの様子。

「コーディネートに悩まないように、白か黒ばかり選びがちですが、安いTシャツを5枚買うぐらいなら、いいTシャツを1枚買うようにしています。相対評価はしたくないので、絶対評価で、これいいなと感じたら買う。即決型なので、高くても気に入ったら買うのは、自分の感覚を信じたいからなんです」

余計な雑音・雑念を取り払うことで感性を研ぎ澄ます。

伝統に縛られることなく、自身の感性で盆栽を作る。そのためには、常日頃から感性を研ぎ澄ますことを心がけ、“空間をつくること”と“服を着ること”を大切にしている。インテリアもファッションも、盆栽師としての重要なエレメントの一部である。

そんな平尾さんがSEEKにはじめて袖を通したときの体感は衝撃だったと振り返る。

「こういう着心地の服は初めてだったのですごく驚きました。身長も肩幅もあるんですが、体が細いのでSサイズを着ています。体にピタッとフィットさせて着ると、汗を吸って乾きも早いから、Tシャツがいつもさらっとしていて快適です。今日も襟ぐりの広いボートネックタイプを着ているのですが、襟元からも袖口からも中がのぞいてないでしょ。それにわき下がもたつかないので作業のときも気にならないし、着ていることを忘れてるかも。例えて言うなら、もう一枚の皮膚を着ている感じでしょうか」

ロックTシャツを着ていた若い頃には気にならなかったが、無地の白いTシャツは乳首が透けたり浮いたりするのが気になるので、厚手の素材やユルめのシルエットを選んでいたという。服が気になってパフォーマンスに影響するのは絶対に避けたい。マニュアルがなく感覚に頼るところが大きい盆栽の剪定には、研ぎ澄まされた感性が必要だ。余計な雑音・雑念がないところでこそ、実力がいかんなく発揮される。

「服と一緒で余計なものはできるだけそぎ落としたいんです。服が気になって作業できないのは困りますよね。Tシャツがメインだからこそ、下に着ているアンダーウェアがバレるのも避けたい。ベージュだから透けないっていうのも、男の下着にはなかった考え方だったので感心しました。それにボートネックはTシャツの襟元からアンダーウェアがのぞかないようにという配慮だし、袖が短い設定になっているのも袖の内側がもたつかないように考えられているからですよね。そういうところまで気遣ってるところはホンマによく考えられてるなとSEEKを着るたびに感心しています」

襟ぐりを大きくカットした「ボートネック」と呼ばれるネックライン。夏場のデザインTシャツ・カットソーや、プラケットを開いたポロシャツでも襟元がすっきりと着こなせる。

Tシャツやポロシャツなどの短めの袖でも中がのぞかないショートスリーブタイプ。SEEK最大の特長であるカットオフ®素材、フラットシーム、長めの着丈を備えている。

完成した作品に、一番の説得力がある。

最近はメディアへの登場や公の場など、正装を求められることが少なくない。スーツを着る機会も以前より増えた。その際、ワイシャツの下にアンダーウェアを必ず着る。ワイシャツ地が透けるのが気になるからだ。

「外国人からしたら透けるのなんてどうでもいいことなんでしょうけど。僕がというわけじゃなくて、日本人ってそこまでこだわる?っていうところまでこだわりますよね。たとえばこの縫い目がフラットになっているところとか、ネックまわりや袖・裾のカットオフ®仕様も、最初はデザインかなって思ったのですが、これも着心地を考えてのことなんだって知って感心しました」

日本の伝統文化を世界に伝える活動をしている平尾さんに、SEEKも日本の技術で作られていることをお話しすると、納得がいったようにうなずかれた。

「裾丈や袖の長さも研究してデータを取って作られているんだと思うけど、海外のブランドって、そういうところまでなかなかいかないように思うんです。気になるところは気になるし、気にならないところは気にならないんだけど、日本人はそのポイントがとても繊細だと思います」

SEEKはUネック、ボートネック、Vネックなどの襟ぐりのタイプに加え、袖丈やカラーバリエーションなど多彩に用意されている。使い回すのではなく、それぞれの好みに合わせたモデルを用意している点は、着る人のことを第一に考えているからこそ。平尾さんは、そこに感心しているのだという。

「日本人って、相手のことを考える先回りの精神みたいなものがありますよね。そういうところも含めて、日本人特有の“間”というか感覚的なものだと思うんですが、そういう感性って、あらゆるところ、特にものづくりには活きるように思います」

盆栽の枝ぶりには“間”の取り方があると話を続けた。長く伸びた差し枝と受け枝のバランスや、奥行きをつくるための食いつき枝の配置など、盆栽は立体芸術。これを外国人に説明するのはとても難しいと平尾さんは言う。だからこそ、あえてインスタレーション的にその場で作り上げることに意味があるのだろう。出来上がった作品は雄弁に語り始めるのではないか。

「SEEKもパッケージで事細かに説明してるわけじゃないけど、着ればすぐにわかることがたくさんある。完成したものこそ、一番説得力があるというところにも共感するんです」